2008年04月
ワトソン博士のDNA
2008年04月23日
The complete genome of an individual by massively parallel DNA sequencing. Nature, Vol.452, Pages 872-876, 2008.
Natureからです。
DNAの解析技術の進歩により、もうすこししたら個人個人で自分のDNAのデータを知ることができる時代がくることになりそうです。
これまで、ヒトの全遺伝情報を解析するためには(つまり、DNAの中にはどのような情報=詳しくは塩基配列)、膨大な年数とお金(約100億円)がかかりました。国家プロジェクトだったわけです。
しかし、今回の論文では、その解析技術を進化させてたった2ヶ月で、しかも約1億円ほどで解析が可能になったということです。ただ、まだ一人のDNA情報解析が1億円かかるので、普及にはもう少し技術の進歩を待たなければいけませんね。
この論文で興味深いのは、解析対象者です。実は、DNAの二重らせん構造をクリック博士と一緒に発見した、かのワトソン博士!なんとも感慨深い話ですね。
個人個人のDNA情報を知ることで、将来この人はある病気になりやすいかどうか、ある薬が効きやすいかどうかといった判断に使えるので非常に有用な反面、もしその情報を第三者が知りえてしまったら、DNA情報で人が差別されてしまう、迫害を受けてしまう原因にもなりえ、科学的には素晴らしい研究なのですが、倫理的にいろいろな問題をもっている研究でもあります。
この論文では1ページを使って個人情報をどう扱っていたのかを記述していますが、事前のワトソン博士との面談の結果、ワトソン博士自身がこの研究の専門家でもあるので、解析したデータは全てデジタルデータで博士に渡したそうです。ちなみに、博士自身は世界的に超有名な人(いわゆる公人)でもあり、自身の情報を生命研究に役立ててほしいという観点から、DNA情報はインターネットの以下のURLを通じて全世界に公表しています(全て英語です)。
Genotype Viewer
ただ、知らない、知りたくない権利というものもあります。実はワトソン博士は、ある特定のDNAの部分は解析を希望せず、したがって公表もしておりません。それはなにか?
実はアルツハイマー病に関係があるといわれているアポリポタンパク質EのDNA情報なのです。これからの自分の健康リスクのことについて、やはり気になる、だけれども知りたくなかったのでしょうか。
Natureからです。
DNAの解析技術の進歩により、もうすこししたら個人個人で自分のDNAのデータを知ることができる時代がくることになりそうです。
これまで、ヒトの全遺伝情報を解析するためには(つまり、DNAの中にはどのような情報=詳しくは塩基配列)、膨大な年数とお金(約100億円)がかかりました。国家プロジェクトだったわけです。
しかし、今回の論文では、その解析技術を進化させてたった2ヶ月で、しかも約1億円ほどで解析が可能になったということです。ただ、まだ一人のDNA情報解析が1億円かかるので、普及にはもう少し技術の進歩を待たなければいけませんね。
この論文で興味深いのは、解析対象者です。実は、DNAの二重らせん構造をクリック博士と一緒に発見した、かのワトソン博士!なんとも感慨深い話ですね。
個人個人のDNA情報を知ることで、将来この人はある病気になりやすいかどうか、ある薬が効きやすいかどうかといった判断に使えるので非常に有用な反面、もしその情報を第三者が知りえてしまったら、DNA情報で人が差別されてしまう、迫害を受けてしまう原因にもなりえ、科学的には素晴らしい研究なのですが、倫理的にいろいろな問題をもっている研究でもあります。
この論文では1ページを使って個人情報をどう扱っていたのかを記述していますが、事前のワトソン博士との面談の結果、ワトソン博士自身がこの研究の専門家でもあるので、解析したデータは全てデジタルデータで博士に渡したそうです。ちなみに、博士自身は世界的に超有名な人(いわゆる公人)でもあり、自身の情報を生命研究に役立ててほしいという観点から、DNA情報はインターネットの以下のURLを通じて全世界に公表しています(全て英語です)。
Genotype Viewer
ただ、知らない、知りたくない権利というものもあります。実はワトソン博士は、ある特定のDNAの部分は解析を希望せず、したがって公表もしておりません。それはなにか?
実はアルツハイマー病に関係があるといわれているアポリポタンパク質EのDNA情報なのです。これからの自分の健康リスクのことについて、やはり気になる、だけれども知りたくなかったのでしょうか。
薬がきかなくなるワケ
2008年04月08日
A nuclear receptor-like pathway regulating multidrug resistance in fungi. Nature, Vol. 452, Pages 604-609, 2008.
ネイチャーから(そういえばずっとネイチャーだ)。
今回は薬の話です。
体にばい菌(微生物)が入った時、現在はさまざまな薬があるので、普通はそのばい菌に応じて適切な薬を飲めばあっという間に微生物を退治することができます。
でも、体力が落ちたとき(病気や高齢の方など)にどんな薬を飲んでも退治することができない微生物が体に入ってしまうケースがあります。このことを、多剤耐性といって、多剤耐性菌の存在は今大変な問題になっています(院内感染したってニュースがときどきありますね)。
では、どうやって多剤耐性菌は薬(詳しくは抗菌剤といいます)によって退治されないのか?
本来だと、
わたしたちの細胞>その中に入った微生物>微生物の中にある薬の標的
の順に抗菌剤は中へ中へと入って標的をアタックして、微生物を退治します。
しかし、多剤耐性菌の中に抗菌剤が入ると、本来の薬の標的以外に、薬は多剤耐性菌のDNAにくっついてしまうようになり、DNAに働きかけて、あるタンパク質をつくらせてしまうのです。
つくられるタンパク質はどんなタンパク質かというと、いろいろなものをくみだす、まるでポンプの役割をするタンパク質なのです(専門的にはABCトランスポーターという名前で呼ばれます)。
多剤耐性菌は私たちの細胞の表面にABCトランスポーターをたくさんつくらせて、抗菌剤が細胞へはいってきても、すぐにくみだしてしまうことでうまく薬から逃げているのでした。
自分にとって危険なものと判断したら遠ざける戦略として、多剤耐性菌はみごとなことをしているわけですが、ホントにうまいことを考えつきますよね。
とここで感心している場合ではないですね。
なので、私たちはこんな頭のいいやつらにどうやって対抗するのか。
おそらく、抗菌剤が多剤耐性菌のDNAにくっつくのを阻止するような薬を開発するのが手ですかね。
でも、今度はそれをかいくぐるものが現れたら?
ネイチャーから(そういえばずっとネイチャーだ)。
今回は薬の話です。
体にばい菌(微生物)が入った時、現在はさまざまな薬があるので、普通はそのばい菌に応じて適切な薬を飲めばあっという間に微生物を退治することができます。
でも、体力が落ちたとき(病気や高齢の方など)にどんな薬を飲んでも退治することができない微生物が体に入ってしまうケースがあります。このことを、多剤耐性といって、多剤耐性菌の存在は今大変な問題になっています(院内感染したってニュースがときどきありますね)。
では、どうやって多剤耐性菌は薬(詳しくは抗菌剤といいます)によって退治されないのか?
本来だと、
わたしたちの細胞>その中に入った微生物>微生物の中にある薬の標的
の順に抗菌剤は中へ中へと入って標的をアタックして、微生物を退治します。
しかし、多剤耐性菌の中に抗菌剤が入ると、本来の薬の標的以外に、薬は多剤耐性菌のDNAにくっついてしまうようになり、DNAに働きかけて、あるタンパク質をつくらせてしまうのです。
つくられるタンパク質はどんなタンパク質かというと、いろいろなものをくみだす、まるでポンプの役割をするタンパク質なのです(専門的にはABCトランスポーターという名前で呼ばれます)。
多剤耐性菌は私たちの細胞の表面にABCトランスポーターをたくさんつくらせて、抗菌剤が細胞へはいってきても、すぐにくみだしてしまうことでうまく薬から逃げているのでした。
自分にとって危険なものと判断したら遠ざける戦略として、多剤耐性菌はみごとなことをしているわけですが、ホントにうまいことを考えつきますよね。
とここで感心している場合ではないですね。
なので、私たちはこんな頭のいいやつらにどうやって対抗するのか。
おそらく、抗菌剤が多剤耐性菌のDNAにくっつくのを阻止するような薬を開発するのが手ですかね。
でも、今度はそれをかいくぐるものが現れたら?