2011年05月

細胞の中にあるタンパク質の寿命はどのくらい? 3

2011年05月31日

Global quantification of mammalian gene expression control. Nature, Vol.473, Pages 337-342, 2011.

個人的にいやー、すごい、と思う論文を選んで紹介するスタンスをとっているのですが、私自身がすごいと思う基準として、

1.思いもつかなかったことを明らかにした論文を読んだとき
2.思いはつくけど到底自分自身ではできそうもない(経済的に、とかマンパワー的にとかの理由で)ものを力任せに解き明かししている論文を読んだとき 

の2つなんですが、この論文は後者にあたります。


ドイツの研究所と会社の研究チームたちが明らかにしたのは、細胞中にあるDNAからmRNAが転写されて、タンパク質が翻訳される過程にはどのくらい相関性があるのかということ。

 細胞中ではmRNAやタンパク質が合成されるだけではなく、それぞれを分解する機構も存在するため(いわゆる寿命ですね)、一つ一つ、遺伝子からタンパク質までの寿命を調べて、このタンパク質は寿命が長い、はたまたこのタンパク質は寿命が短い、もしくはタンパク質の寿命は短いけどmRNAはたくさん作られるから結果としてタンパク質は多く存在する、などはよく研究されていますし、私の研究室でもやっていますが、細胞全体レベルでやろうという研究はなかなかなかった(というよりいったいいくらかかるか、どのくらい人が必要なのかわからないのでそもそも私ならやりたくない)のです。


で、この研究チームは5000個以上のmRNA、タンパク質を瞬間的に標識して、経過時間とともに標識されていないものが少なくなり、標識されているものが増えてくるので、その割合を調べることでそれぞれの寿命を調べました。 

その結果、mRNAの寿命とタンパク質の寿命は案外きれいに相関性があって、タンパク質の寿命を決めているのはそのmRNAの寿命であることがはっきりとしたそうです(つまり、タンパク質の分解ではないということです)。

もちろん、抗酸化効果、呼吸活動、RNAスプライシング、mRNA合成のような常に必要とされるタンパク質は分解されにくく、結果としてmRNAの寿命に関係なくタンパク質の寿命が長いこともわかったとのことです。納得の結論です。


びっくりしたこと。
論文の一番最後に、著者はどの箇所でこの論文に貢献したか記述している箇所があります(最近は多くの論文でこのようなことを書くケースが増えてきました。貢献していない人は筆者になってはいけない、ということです)。
見てみると、タンパク質の実験をしたのは1人、同じくRNAの実験をしたのも1人。あとの6人はデータ解析です。意外に手を動かして実験した人の人数は少ないんですね。むしろプログラミングに人を割いておりました。

批評するのは難しいですね 1

2011年05月24日

There's a time to be critical. Nature, Vol.473, Page 253, 2011.


他の論文を実は紹介しようと思っていたのですが、あまりにも今の自分の心境にあった社説があったので、今回はこの記事を紹介します。今日は生命理工学系の皆さん向け、というより完全にプライベートな話題です。


大学教員は授業以外の時間に研究室の成果を世に出すべく、せっせと論文書きを行っております。


科学論文雑誌に掲載されるためには、実験者は素晴らしい研究を行って論文の形式にまとめあげて編集部に送ればそれで終わりという訳ではありません。


まずは編集部でチェックを受けた後、その論文を理解できる専門家(自分以外の研究者、です)が何人か覆面でレフェリー(審査員)となりその論文を批評して、論文執筆者に対してよりよい論文にするように書き直しや追加実験を要求します。

この要求は編集部を通して執筆者に伝えられて、一定期間内に論文を修正してまた編集部に送って・・・ということを編集部やレフェリーがその論文の内容に納得するまで繰り返して、めでたく掲載、もし納得できない場合は掲載が不可になります。 



で、この社説によると、レフェリーは執筆者に対して要求が過剰だ、本当にその要求は必要なのかを考えた方がいいのではないか、また編集部側でもレフェリーの意見が過剰でないか判断して、過剰な場合は編集部側でその要求をつっぱねてはどうかということを提言しています。





現在、ちょうど審査中だった論文が、レフェリーからのいろいろな要求とともに戻ってきて、ブルーな気持ちになっていたので、少しは気分も晴れやかになりました。

ただ、この記事にはこんなことも。執筆者は論文をあせって不完全な形で投稿せず、時間をかけてちゃんとしたものにしてから投稿しましょう、と。 。。

しかも、自分がレフェリー側にまわった時は執筆者に対していろいろと追加実験を要求していたような。。。僕に指示された方々、すみません。今度からは執筆者の側にたちながら審査したいと思います。

椎葉先生インタビュー (2) 4

2011年05月21日

さて、今回は予告通り、椎葉先生インタビューの第二弾をお送り致します。


ー何かご趣味などありました教えて頂けますか?
昔からクラシック音楽が好きで、チェロを30年くらいやっています。
それから、水泳ですね。得意、というわけではないんですよ、単にゆっくり長ーく泳ぐのが好きなんです。水泳は全身運動なのですごく疲れるんですよ。すると、そのあとぐっと飲むビールがうまいんですよね〜。なので、水泳が趣味というよりは、水泳のあとのビールが趣味、ですかねぇ。

ービール呑みたくなってきました…。先生のチェロ、ぜひお聴きしたいですね。

ー先生が赴任されて一ヶ月ほど経ちましたが、電大、あるいはRBに対してどのような感想をお持ちになりましたか?
そうですねえ、RBの学生は皆さん真面目で考え方もしっかりしてるなーと思いました。物事をストレートに考える、とても素直な学生が多いと感じました。それが一番の感想で、それはとても良いところだと思います。
鳩山キャンパスについて言えば、奇麗ですね。自然もたくさんあって、勉強するにも研究するにも、とても良い環境だな、という印象です。

ーそれでは最後に、RBの学生の皆さんへメッセージをお願い致します。
研究室の学生にも話しているのですが、ぜひここで『世界で1人だけの研究者』になって欲しいと思います。世界で一番の研究者、では無くてです。色んな多くの人とコミュニケーションをとってディスカッショんをして自分を磨いて、自信を持って卒業して欲しいと思います。つまり、それが『世界で1人だけの研究者』になる、ということです。
DSC03153









椎葉先生、お忙しいところ、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?もっとたくさんお話をお聞きしたくなった人も多いのでは?

3年生はそろそろ研究室配属決定の時期ですね。
椎葉研究室に関わらず、興味がある研究室にはぜひとも出向いて先生や先輩の話を良く聞いてみることをおススメ致します。



文責:アベ

寿命が長くなる鍵はN-アシルエタノールアミンにあった! 2

2011年05月17日

N-acylethanolamine signalling mediates the effect of diet on lifespan in Caenorhabditis elegans. Nature, Vol.473, Pages226-229, 2011.

新任の椎葉先生のインタビュー、始まりましたね。
生命理工学系の皆さんの中でまだ授業を受けていない方、期待していて下さいね。

さて、今回はこのブログでも何回か紹介している、長寿に関わる物質の話です。

一般的に、線虫やハエ、ネズミたちの動物では食事制限をすると寿命延長効果があることが明らかになっていますが、なぜそのような効果があるのかはいろいろな説がでております。

今回は、脂質の一種、N-アシルエタノールアミンの量が寿命に関係している!という報告です。線虫での実験ですが、N-アシルエタノールアミンを欠損させると寿命がのび(線虫の寿命、普通一ヶ月ぐらいのところが10日くらいのびるそう)、逆にN-アシルエタノールアミンを食事制限中の線虫に与えると寿命延長効果がなくなるそうな。

脂質は生体内でいろいろなシグナル伝達に関係しているのであまり不思議ではないですが、完全に存在しない方がいいんでしょうか?

椎葉先生インタビュー (1) 4

2011年05月13日

みなさん、こんにちわ。
ここ数週間立て込んでいて、更新を長原先生に頼りきってしまっていました。
長原先生、楽しみにしてくれていたありがたい方々、申し訳ありません…。


さて、本日は新任の椎葉究(しいばきわむ)先生へのインタビューをお送りしたいと思います。
椎葉先生は本年度から電大にいらっしゃいましたが、昨年まではずっと企業にお勤めでした。
皆さんきっと興味津々なのではないかと思います。(私もですが。)
とても楽しいインタビューになったと思いますので、それでは、どうぞ。


ー専門を教えて下さい。DSC03147
専門と聞かれると私はちょっと困るのですが…。
大学・大学院時代は応用微生物学を専攻していて、主に酵素や細胞膜の成分について研究していました。
そのためもあって、その後企業に就職して研究所に配属されてたのですが、パンの発酵について研究するように言われました。パンの発酵と言えばイースト(酵母)なので、イーストの発酵について調べるはずだったのですが…。
実は、パンがおいしく出来るための発酵に重要なのはイーストの発酵ではなくて、小麦自体が持つ酵素が重要だってことがわかったんですよ。
つまりイーストを発酵させてる時に小麦の酵素も働くんですが、イーストなんかより、この酵素活性によってパン生地の成分が自ら変わっていくことこそがパンがおいしくなるために重要だったってことなんですよ。


ーへぇ〜!びっくりしました!それは知らなかったです。
そういうわけで、専門の一つは食品微生物学と言いたいところなんですが、結局微生物は関係なかったので、『食品』が専門ですかねぇ、やはり。

ー環境分野の研究もなさっていたのですよね?
はい。そのあと、小麦を使って木材を早く堆肥化するための方法というのを研究して見つけたんですよ。
木材と言うのは、ご存知のようになかなか分解されないので、建材などの木材ゴミの多くは廃棄(焼却)されてしまうんですね。
それを早く堆肥化して利用する、つまり、小麦を加えると木材を好んで分解する(腐らす)菌が選択的に増殖して早く木材を分解することがわかったんですよ。小麦中のある成分が、木材を好む微生物の良いエサになっていたんですね〜。


DSC03150ーそれがバイオレメディエーション(環境浄化)の研究に繋がっていくわけですね?
この、木材を早く堆肥化する方法を特許化したのですが、ゼネコンやら都道府県なんかにずいぶん採用してもらったので、けっこう儲かったんですよ(笑)
ーおお〜っ
それでその研究部署が大きくなりまして、この小麦の成分を使う方法を他にも展開出来ないかと考えたわけです。その一つが石油汚染土壌の浄化への利用だったんですね。
小麦の成分を使って、石油を分解する菌を選択的に増殖させることで土壌を浄化することが出来たんです。
小麦の成分によって選択的に増殖・活性化するのがどのような菌群なのかを調べることは、これから取り組んで行きたい研究の一つでもあります。
そういったわけで、あえて言うなら、環境の微生物と食品が専門分野じゃないかな〜と自分では思ってます。




椎葉先生のお話はとっても楽しく興味深く、私の専門に近かったこともあり、ここには到底書ききれないほど多くのお話を聞かせて頂きました。
椎葉先生は私の脱線した質問にも丁寧にかつ的確に答えて下さり、大変勉強になりました。
椎葉研に興味を持った人はぜひぜひどしどし質問しに伺って下さいね〜。特に3年生。

長くなってしまったので、椎葉先生へのインタビューは来週に続きます。
次回は先生のご趣味など、人柄に迫ってみました。
どうぞお楽しみに〜。


文責:アベ


男が女を好きになるのはセロトニンの影響だった!? 3

2011年05月10日

Molecular regulation of sexual preference revealed by genetic studies of 5-HT in the brains of male mice. Nature, Vol.472, Pages 95-99, 2011.
はじめに断っておきますが、これはマウスの実験結果です。

神経伝達物質の一つ、セロトニンを生産できなくしたオスのマウスは、オスメス構わず、というよりむしろオスを好んで交尾しようとするらしいです。
しかもセロトニンの前駆体を体内に入れると、メスが好きになるそうな。

ヒトではまだこのような研究は進んでいないらしいですが、こういうことを研究する人たちもいるんですね。


微生物をやっつけるカギはミトコンドリアにあった! 3

2011年05月03日

TLR signalling augments macrophage bactericidal activity through mitochondrial ROS. Nature, Vol. 472, Pages 476-480, 2011.

GWはいかがお過ごしでしょうか。
理工学部は通常授業を行っておりますよ。生命理工学系の学生さん、間違えて休んでないですよね?



さて、わたしたちの体の中に入った細菌などの微生物は、マクロファージとよばれる異物を食べる専門の細胞によって食べられることで健康が維持されています。


今回読んだ論文は、マクロファージの中にとりこまれた細菌をやっつけるときの話です。


細菌などの微生物をマクロファージが認識してそのマクロファージにくっつけるために、マクロファージにはトルライクレセプター(TLR)とよばれる受容体(アンテナのようなもの、といってもいいのかな)がありますが、この中でも細菌を認識するTLRに細菌がくっつくと、後に細菌はマクロファージの中に取り込まれます。


その際、マクロファージのミトコンドリアが細菌のところまでやってきて、さまざまな物質を傷害する活性酸素種をどんどん産生させるそうなんです。ミトコンドリアの活性酸素種産生をできなくすると細菌への感染が拡大するそうです。


ミトコンドリアは通常エネルギーを生産する際に活性酸素種をたくさん産生しては、あぶないのですぐに消去するということをしていますが、細胞の中に入ってきた細菌をやっつけるためにミトコンドリアが使われているとは。もともとミトコンドリア自身も共生した細菌だというはずなのに、われわれの細胞はえらい使い方をしていますね。




訪問者数

ブログ管理者