A role for adult TLX-positive neural stem cells in learning and behavior. Nature. Vol451, Pages 1004-1009, 2008.

ネイチャーより。

昔は哺乳類の脳にある神経細胞は、年をとるにつれて死んでいって、数が減少するだけです、と思われてました。僕も大学でそんなように学びました。

でも、最近では脳の一部には、神経細胞を再生させる(神経細胞に形や機能が変わる)「神経幹細胞」というものが存在していることがわかってきています。実はそれらが神経細胞になることで脳の重要な働きである学習や記憶に関係していることまですこしずつですけど明らかになりました。

ただ、どの学習効果の時に、どうやって神経幹細胞が関与するのか、そのメカニズムはブラックボックスです。
この論文は空間を把握する時に神経幹細胞にある、TLXというタンパク質が関係している、ということを見つけたもので、はじめの一歩ともいえる研究です。

このTLX、神経幹細胞の表面にあるタンパク質で、細胞の外からの情報を内側に伝達する役割をもっているものです(受容体と言います)。実はこのタンパク質を発生段階からなくしてしまうと(TLXのタンパク質をつくれない実験動物=マウスをつくる)、正常な個体の発生が起こらないため、TLXの重要性はわかっていました。

でも、おとなになったときにTLXをもっている神経幹細胞はどんなことをしているのか?

知りたいのはこのことなのに、正常な機能をもったおとなにならないのでは調べようがありません。

そこで、ある薬剤を飲ませた時だけTLXがなくなるようにしたのです(簡単に書いてますが、ここが一番大変であり、一番のポイントです。詳しく書くと、Cre-lox組換え法を用いています)!

そうすると、TLXがない、正常なおとなのマウスをつくることができました。このマウスの脳を調べると、神経幹細胞の増殖が起こらないこと、また空間を把握する学習能力が低下することがわかったそうです。ちなみに他の学習には影響がなかったとか。

恐らく、この実験方法を使うことによって、神経幹細胞にある他のタンパク質は、また今回とは違う学習に関与する、なんて成果がでてくるでしょうね。

ブラックボックスだった学習について、科学的に解明ができそうですね。