Global quantification of mammalian gene expression control. Nature, Vol.473, Pages 337-342, 2011.

個人的にいやー、すごい、と思う論文を選んで紹介するスタンスをとっているのですが、私自身がすごいと思う基準として、

1.思いもつかなかったことを明らかにした論文を読んだとき
2.思いはつくけど到底自分自身ではできそうもない(経済的に、とかマンパワー的にとかの理由で)ものを力任せに解き明かししている論文を読んだとき 

の2つなんですが、この論文は後者にあたります。


ドイツの研究所と会社の研究チームたちが明らかにしたのは、細胞中にあるDNAからmRNAが転写されて、タンパク質が翻訳される過程にはどのくらい相関性があるのかということ。

 細胞中ではmRNAやタンパク質が合成されるだけではなく、それぞれを分解する機構も存在するため(いわゆる寿命ですね)、一つ一つ、遺伝子からタンパク質までの寿命を調べて、このタンパク質は寿命が長い、はたまたこのタンパク質は寿命が短い、もしくはタンパク質の寿命は短いけどmRNAはたくさん作られるから結果としてタンパク質は多く存在する、などはよく研究されていますし、私の研究室でもやっていますが、細胞全体レベルでやろうという研究はなかなかなかった(というよりいったいいくらかかるか、どのくらい人が必要なのかわからないのでそもそも私ならやりたくない)のです。


で、この研究チームは5000個以上のmRNA、タンパク質を瞬間的に標識して、経過時間とともに標識されていないものが少なくなり、標識されているものが増えてくるので、その割合を調べることでそれぞれの寿命を調べました。 

その結果、mRNAの寿命とタンパク質の寿命は案外きれいに相関性があって、タンパク質の寿命を決めているのはそのmRNAの寿命であることがはっきりとしたそうです(つまり、タンパク質の分解ではないということです)。

もちろん、抗酸化効果、呼吸活動、RNAスプライシング、mRNA合成のような常に必要とされるタンパク質は分解されにくく、結果としてmRNAの寿命に関係なくタンパク質の寿命が長いこともわかったとのことです。納得の結論です。


びっくりしたこと。
論文の一番最後に、著者はどの箇所でこの論文に貢献したか記述している箇所があります(最近は多くの論文でこのようなことを書くケースが増えてきました。貢献していない人は筆者になってはいけない、ということです)。
見てみると、タンパク質の実験をしたのは1人、同じくRNAの実験をしたのも1人。あとの6人はデータ解析です。意外に手を動かして実験した人の人数は少ないんですね。むしろプログラミングに人を割いておりました。