研究論文

ゲノム解析、一体どのくらいの細胞数からできるの?

2012年07月18日

Accurate whole-genome sequencing and haplotyping from 10 to 20 human cells. Nature, Vol.487, 190-195, 2012.


いやー、すごいです。


タイトルの答えですが、今回の論文では全てのゲノム解析をたった10個から20個(!)の細胞からやってしまう、という新手法をあみ出したというものでした。しかも正確。

著者らはアメリカのベンチャー会社の方たちで、1995年に設立したようです。いろいろな診断サービスを請け負いながら、自分たちの手法の正確さをアピールしているんですね。

動物性脂肪のとりすぎは腸の病気を招く? 3

2012年07月11日

Dietary-fat-induced taurocholic acid promotes pathobiont expansion and colitis in Il10-/- mice. Nature, Vol. 487, Pages 104-108, 2012.

端的に言うと欧米の食生活の摂り過ぎは病気になるよ、という話です。 

欧米の食事によく含まれる飽和脂肪酸を多く摂ると(この実験では乳製品の飽和脂肪酸を使用)、体内でタウロコール酸という物質ができて、これが腸内にいる細菌の中でも悪玉菌を増やしてしまうらしいのです。


また、不飽和脂肪酸では(サフラワー油を使用していました)、このような悪玉菌は増えなかったそうです。



このような悪玉菌が腸内で増えても、正常なネズミではその後問題なかったのですが、 先天的に炎症を引き起こしやすいネズミ(IL10という抗炎症物質を産生できないネズミ)では大腸炎が起こりやすくなったということが報告されていました。


ということで、欧米の食生活に警告をならしているのですが、特殊な場合のみ今回のケースはあてはまることで、一般の健康な人の場合、 そんなに大腸炎においては問題はないのでは?

結腸がんの方には朗報 3

2012年07月04日

Emergence of KRS mutations and acquired resistance to anti-EGFR therapy in colorectal cancer. Nature, Page 532-536, 2012.


結腸がんのお話です。


結腸がんの特効薬、セツキシマブという薬があります。この薬は、結腸がん細胞の表面に多く存在し、細胞の増殖に関係する、上皮増殖因子受容体(EGFR)にくっついて増殖因子と受容体が結合するのをブロックする効果がある、分子標的薬と呼ばれる薬です。


ただ、 この薬を投与してもしばらく経つとがん細胞に、この薬の耐性ができてしまい、薬が効かなくなってしまうという問題点がありました。一般的に、薬を投与しても細胞中の遺伝子の変化(変異)でもともとの細胞がかわってしまい、効かなくなってしまうという現象、薬剤耐性はよくおこります。


この論文によると、セツキシマブを投与すると数週間して、EGFRの下でシグナルの橋渡しをするKRASというタンパク質が変異してしまい、EGFRと増殖因子が結合してても、もしくはしていなくても常に活性化状態になって増殖を引き起こしているのが耐性の主要因であることを突き止めました。


で、ありがたいことに、このKRASをつくり出すがん細胞のDNAの状態が正常か、異常になったのか、血液に流出したがん細胞のDNAを調べればわかるそうです。つまり、がん細胞を取り出す必要がなく、採血すればセツキシマブが効きにくくなるかどうかがわかる!という素晴らしい発見です。


あまりに素晴らしく、この号では二つのグループが同時にこの内容を報告していましたが、そのうちの一つを紹介しました。

プリンストン大学で行われた研究 3

2012年06月27日

Systematic discovery of structural elements governing stability of mammalian messenger RNAs. Nature, Vol.485, Pages 264-268, 2012.

Nature論文の紹介をするのを長らく怠っておりました・・・
今現在投稿している自分の論文や他の仕事に押し潰されて、なかなかNatureを読むことができていなかったのですが、ようやく目処がたってきたので、改めて最近のNatureを片っ端から斜め読み(ってWebの場合はなんて言うんですかね。スクロール早めとでもいうんでしょうか)していました。


やはり、研究者たるもの、自分の研究はもちろん、最近のトレンドはどうなっているのか、定点観測するのは大事だな、と改めて感じます。生物界で流行っているものは何か、その中で自分のやれることは何があるのか、など見つめ直すいい機会になりました。


ところで、このブログを見にきてくれたみなさんの検索ワードで最近急上昇なのが、「プリンストン大学」というフレーズ。
確かに気になります。プリンストン大学ってどんなところ?実際に行くまで(こちらにその当時の模様を)ネットの情報だけでは想像つかなかったですが、行ってみるとさすがは歴史のあるイギリスのような大学、またアイビーリーグの大学の中でもトップクラスの大学という雰囲気がすごかったです。ハーバード大学と高校生を奪い合っているなんていう話も行った当時耳にして、世界のトップとなる人材を育てる!とプリンストン大学の教員も話していました。


また、プリンストンは歴史的な建物ばかりではなく、巨額の資金を投じて理系学部の建物がたてられておりました。そんな中で今回選んだ論文は、プリンストン大学で行われた生物の研究、RNAの安定性に関する研究です。


RNAが転写された後どの程度安定しているのか(分解されないのか)は、RNAの配列に大きく関係しているそうで、その配列構造の違いをパターン化すれば、どのRNAは安定的かどうかがわかります。ということで、ヒトの全ゲノム規模のRNAをパターン化して、安定かどうかを想定するプログラムを作りました、というものでした。


専門外なので全くそのアルゴリズムなどはわからないんですが、情報を駆使して生物の基本的な営みを探るという、コンピュータ科学と生物の融合された研究で、さすがはプリンストン、目の付け所が面白い


・・・と思ったら現在このほとんどのメンバーはコロンビア大学にいるみたいです。研究室ごと移ったんでしょうか。




脳と脂肪との関係

2012年04月25日

Energetics and the evolution of human brain size. Nature, Vol.480, Pages 91-93, 2011.


新年度も始まりましたね!
安部先生から、生命理工学系の新年度の様子をアップして頂いておりますが・・・
こちらは現在多忙で、今回紹介する論文は2011年12月に掲載された、昨年のもの。。。 


今週末からはゴールデンウィークも始まるので(思えば昨年は理工学部はゴールデンウィーク中も授業を行っていたんでした。あれはつらかった)、少しは精神的にゆとりができるといいなあ。


ということで、 はるか昔に読んではいた論文なのですが、この論文は、人間の脳はなぜ他の動物と比べても巨大なサイズになったのか?という疑問に対していろいろな動物との比較を行ったものです。


脳というのはエネルギーをかなり消費する臓器で、ヒトの赤ちゃんでは全消費エネルギーのうち、65%を脳が占めていて、大人でも20-25%くらい使用するのだそうです。

頭を使うとお腹が減る、これは正しい訳です。


ただ、進化の過程でこれだけ脳のサイズが大きくなると、やはり他の臓器は進化とともに小さくなり、結果として全エネルギー消費はあまり変わらないようになっている、というトレードオフが起きているのでは、という説が主流なのだそうで、これまでは脳が大きくなった変わりに、消化器系が小さくなっているのでは?という説が有力だったそうです。

しかし、今回著者たちは、100種類の哺乳類の各種臓器の大きさを調べたところ、これまで言われていた消化器系よりは、脂肪組織と脳の大きさに負の相関があったんだそうです。



つまり、脂肪が少なければ、脳が大きい。


脂肪組織もかなり貯蔵にエネルギーが必要で、ヒトは他の生物と比べて簡単に食物が得られるので、結果として飢餓状態の時に使われる脂肪組織があまり必要なくなるから・・・と説明はわかるんですが、本当にそれが原因なのかどうかは?


著者らも論文の最後で、いろいろな要素があいまって進化とともに脳のサイズが大きくなったんだろうね、という何とも漠然とした文章で終わらせており、この論文結果、どこまで自分たちも自信があるんだろう、というもやもやしたものが残る論文でした。


幽体離脱? 3

2012年03月09日

安部です。
今日(3月9日)はサンキューの日だそうです。感謝の気持ちはいつでもどんなことに対しても忘れないようにしたいなーと常日頃から思っておりますが、せっかくなので、(いつも)ブログを読んでくれている皆さんに感謝を。
どうもありがとうございます!!そして最近更新少なくてすいません。。。

皆さん成績表は頂きましたか?めでたく進級・卒業出来た人もそうでなかった人も、新学期に向け新たな気持ちで頑張りましょう!

昨日今日は鳩山での企業セミナーがありましたね。(連絡抜けて申し訳ありません。)就職活動中の皆さん、充分に自分をアピールすることが出来たでしょうか?


さて、今日は論文ではないのですが、気になった Nature の記事を少し。

Out-of-body experience: Master of illusion
Nature, 07 December 2011


まさしく体外離脱って書いてありますけど、実は錯覚の話です。
とっても簡単に体外離脱した気分(?)になれる話。まず、自分を後ろから撮影した映像が映し出されるゴーグルを装着したところに、棒とかナイフをカメラを突くように動かす。同時に身体のほうにも軽く触れると(Fig.参照)、それだけで自分が本当に刺されたように感じて、後ろから自分を眺めているような感覚(つまり自分の身体から離脱した感覚)になるのだそう。また、マネキンや人形の映像を同様にゴーグルに映して、例えばマネキンと被験者のお腹を同時に叩くと、被験者は自分がマネキンや人形に入ってしまった感覚になるらしい。
うーん、私も試してみたい。感覚(脳)ってほんとあやふやで不思議ですね〜!


それでは皆さん良い週末を。

追伸:副手の書類をまだ貰っていない人、出していない人、早く出してくださいね〜。


適度な食事こそが勉強がはかどる

2012年01月12日

Appetite hormone may squelch learning. Nature, 2005.

なんともうすぐセンター試験。
生命理工学系のみなさんもそろそろ後期試験が始まる頃で、勉強に追われる日々かと思います。


こちらも論文書きに追われてて・・・
という事情もあるのですが、やはり仕事上の論文ばかり読んでいる生活だと肩もこるので、今回はNatureのニュースにあった、これが頭にいい!という物質の紹介です。


今回紹介する、頭にいい、つまり記憶力がよくなる物質とは、レプチン。食事をすると分泌されるホルモンで、満腹感を制御するのですが、このホルモン量と記憶力に関連があるそう。



適度な量、レプチンが分泌されると記憶力がよくなるんだとか。追い込みだからと寝ずに空腹で頑張って勉強するよりも、ちゃんと夜食を食べて勉強した方がいいのかもしれません。


ただ、食べ過ぎて過剰のレプチンが分泌されすぎると記憶力増強効果はなくなるんだとか。怖いですね!!


みなさんも食べ過ぎには注意して勉強頑張って下さい!

こんな名前の動物はかわいそうだ 3

2011年11月16日

Genome sequencing reveals insights into physiology and longevity of the naked mole rat. Nature, Vol. 479, Pages 223-227, 2011.

ハダカデバネズミ。

今回の論文の研究対象の日本語名です。


この名前だけで、この論文を読まなければいけない、と思いました。
英語名だったら裸のモグラという感じなんですが、 なんで日本語名はこのようなひどい名前になったんでしょうか。
写真をみる限りはそれほどかわいそうなかっこうではないんですが、名前からうける印象は最悪です。
本人達はこんな名前で呼ばれているとは知らないでしょうが、かわいそうに。


で、このハダカデバネズミ(やはりインパクト高いですね)。 何がすごいかというと、他のネズミと比べて非常に長生きなんです。30年くらい生きるんだとか(普通のネズミは2年くらい)。

しかも、老化現象が見られず、酸化ストレスを受けず、がんにもなりにくい。名前はあれですが、まさにスーパーマウス。


どうしてハダカデバネズミは長寿なのか?その手がかりを探るべく、今回ゲノム配列の解読に成功したというのが今回の論文でした。
なにかこれだ!という特別な遺伝子が見つかった訳ではないようで、これからようやく研究がスタートできるよというもののようです。


ただ、長寿は長寿なんですが、その代わりに体温調節ができない、視力がよくない、痛覚がなく、味覚もおかしく、毛がない(これはどうでもいいかもしれませんが) とかなり代謝に犠牲を払った上での長寿なんですね。長生きするにはそれだけ犠牲にするものも多く、こういった研究の結果、のんびりしているけれども長寿か、活動的だけれども短命かという代謝と寿命は反比例することがわかってくるのではないかと、あれだけ素晴らしい仕事をして残念ながらまだまだこれからという時に亡くなったスティーブ・ジョブズのことを思うにつれ、感じます。


ちなみに、ハダカデバネズミ、ここ鳩山キャンパスの近く、こども動物自然公園で飼育されているそうです。

炎症が記憶力低下に関係する!? 3

2011年11月02日

The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function. Nature, Vol. 477, Pages 90-94, 2011.

はじめに告知です。
生命理工学系の方はご存知の通り、今週の金曜日から理工学部では鳩山祭という学園祭を行います。
生命理工学系に興味のある方はぜひお越し下さい!


さて、久々の論文紹介ですが、この論文は年を取るに連れて神経細胞の再生力が減少し、認知能力が低下する原因物質を特定した!というものです。

若いネズミと年をとったネズミを外科手術を用いてくっつけ(!)、血液をお互いの体で循環するようにしました。すると、年取ったネズミでも神経細胞の再生が起こりやすくなったということがわかったそうです。


そこで、血液の何が年をとると変わるのか、いろいろ調べた結果、炎症に関係する物質、CCL11が年齢とともに増え、CCL11を注射すると確かに神経細胞の再生は起こりにくくなるそうです。


なぜCCL11が神経細胞の再生を起こしにくくするかはまだわからず、現象しか発見できていないとのことですが、意外性が高いですね。CCL11を普段から大量に作っている(傷だらけな)人は神経再生能力が低くなってしまうんでしょうか。

酵素の交通渋滞? 3

2011年09月30日

しばらくぶりになってしまい、(もしかしたら楽しみにして下さっていた方)すみません。
明日からはもう10月ですね。早いですね〜…。

長原先生は学会で京都へ行かれたみたいですが、私も夏休み中に学会で札幌に行ってきました。
International Union of Microbiological Societies (IUMS) という微生物の国際学会です。
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下の写真は北海道大学のイチョウ並木です。

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学会会場は北大ではなかったのですが、近かったので見学してきました。あまりに広くて迷子になりました…。



本日はさらにちょっとだけ論文紹介を。

Traffic Jams Reduce Hydrolytic Efficiency of Cellulase on Cellulose Surface
Science, Vol. 333, No. 6047 pp. 1279-1282, 2011.


Science からセルロース分解酵素のお話です。
特に生物環境コースでは興味をもっている人も多い話題なのではないかと思います。

地球上に最も豊富に存在するセルロース系バイオマス(木材)から燃料や原料を効率よく生産することが期待されて、そのためセルロース分解酵素(セルラーゼ)の研究が進められているわけですが、このセルラーゼの反応速度はとても遅く、効率的とは言えませんでした。

ではなぜ、分解反応速度が遅いのか?
実際にセルラーゼがセルロースを分解する様子をリアルタイムで観察することにより、その原因を明らかにしています。(その映像は論文サイトの Supporting Online Material というところで見ることが出来ます。一見の価値ありですよ。)
セルラーゼはセルロースのどこにでも結合してどこでも分解できるわけでは無く、セルロースの繊維に沿って一方方向に進みながら分解しているのだそうです。
セルラーゼは一方向に同じ場所を進んで行くので、詰まって”渋滞”しているということがわかりました。なので、酵素量を増やしても分解速度は速くならないのだそうです。
そのため、セルラーゼの渋滞が起こらないような処理を、酵素の動きを観察しながら検討もしていました。

固体であるセルロース表面にセルラーゼがどのように結合して、どのように分解するのかは以前から興味がありましたが映像で見れるとは思っていませんでした。すごいですねぇ。



文責:アベ

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